3.処方の配合…君臣佐使について


処方を構成する生薬はその働きと重要性によって君薬・臣薬・佐薬・使薬に分けられています。

君薬方剤中で主証を治療し、主たる作用をなすもの。
臣薬主薬を助けて治療効果を高めるもの。
佐薬主薬を助けて随伴症状や合併症を治療したり、主薬の毒性や強い性味を抑制したりするもの。
使薬各種の薬物作用を疾病部位まで導いたり、各種の薬の作用を調和したりするもの。

(例)麻黄湯(4味) 麻黄・桂枝・杏仁・甘草

麻黄発汗解表、肺の機能を整え喘息を改善します。君薬
桂枝温通解表、麻黄の発汗解表の作用を増強します。臣薬
杏仁肺の機能を調え喘息の改善を増強します。佐薬
甘草諸薬を調和します。使薬

複雑な病態で構成生薬が多い処方では君薬が2〜3個ある場合もあります。このような処方では君臣佐使の内容が不明確になりやすいので無理に決めるよりも構成薬物の薬能と相互関係を知ることがより重要です。

(例)十全大補湯(10味)

人参・白朮・茯苓・甘草・当帰・芍薬・川芎・地黄・黄耆・桂皮

人参・黄耆―気を補う作用。(補気薬)

白朮・茯苓―余分な水分を除き、胃腸の働きを増す作用。(利水薬)

当帰・芍薬・川芎・地黄―血を増やし、体を温める作用。(補血・活血薬)

桂皮―体を温め、諸薬を全身に巡らす作用。

甘草―諸薬を調和します。


これから各処方を勉強する前に、今回は『傷寒論』の最初に出ていて、すべての処方の基本になっている桂枝湯とその桂枝湯と虚実の差でよく比較される麻黄湯を合わせて解説していきます。


  • 桂枝湯

    [構成]

    桂枝【辛温】芍薬【苦平】大棗【甘平】生姜【辛温】(乾生姜1)、各4

    甘草【甘平】2

    この構成は、桂枝が陽即ち表を助け、芍薬が陰即ち裏を助ける、桂枝―芍薬の二味が中心になっています。甘草は桂枝と芍薬を調和させ、生姜が桂枝を助け、大棗が芍薬を助ける。処方全体としては身体の陽気を補いながら陰陽のバランスを調えていく働きがあります。   

    [出典および口訣]

    本方の条文は『傷寒論』『金匱要略』に約三十条あります。

    @「太陽病、頭痛発熱、汗出でて悪風するものは、桂枝湯これを主る」

    A「太陽病、外証未だ解せざるは、下すべからざる也。外を解せんと欲するは、桂

    枝湯に宜し」

    B「太陽病、之を下して後、其の気上衝するは桂枝湯を与うべし」

    C「桂枝は本と、解肌を為す。若しその人脈浮緊にして、発熱し、汗出でざるは之を与えるべからず。常に須らく之を識り、誤らしむることなかるべき也」

                               『傷寒論 太陽病篇』 

    D「頭痛発熱汗出て悪風する者はこの方の正証也。頭痛の一証も亦まさに此の方を投ずべし。もし咳嗽嘔逆によりて頭痛するものは此の湯の治する所に非ざる也。

    (略)脈浮弱或は浮数にして悪寒する者は証そなわらずと雖も亦此の方を用ゆべし、浮数弱は蓋し桂枝湯の脈状也。」

                                『方機』吉益東洞 

    [証および適応症]

    証:脈は浮いて緊張が弱く、のぼせがあり、頭痛、発熱、汗が出て悪風し、腹が引きつる(拘急する)もので、平素から風邪をひきやすく、疲れ易い虚弱な人の以下のようなときに使用します。

    @ 熱性疾患の初期で、発熱悪寒、頭痛、自然発汗のあるもの。

    A 発汗剤などで発汗した後、解熱しないもの、身体痛のあるもの。

    B 上衝(のぼせ、鼻出血、頭部の発汗など)の諸症状。

    C 脈は浮で弱・大 舌苔はない場合が多い。

    適応症:

    @ 感冒などの熱性疾患で初期の症状

    A 体力が低下しているためなかなか治らない感冒で表証の残っているもの。

    B 頭痛は、筋緊張性頭痛の場合もあるが、拍動性の場合が多い。

    C 身体痛は、発汗後に筋肉の緊張をともなうような痛み。

    D 下痢で脈浮のもの。

    E 桂枝湯は風邪の初期によく用いられますが。長い間さむけや微熱が取れない者で、他にたいして異常が発見できない時に用いて、良いことがあります。

    F 桂枝湯には強壮の作用があります。古人はこの処方には気血の巡りを良くして、陰陽を調和する作用があると考えました。

    [加減方および留意]

    桂枝加芍薬湯・桂枝加(苓)朮附湯・桂枝加竜骨牡蛎湯・小建中湯・当帰建中湯・葛根湯・小青竜湯など多くの処方の基本となっています。

    桂枝湯類(桂枝を基に作られた処方

    桂枝加芍薬湯:桂枝湯+芍薬2【苦平】

    桂枝湯の芍薬の量を4→6に増量することで陰を強くして薬方を裏(消化管)に導きます。桂枝湯は温める薬方なので、この消化管の冷え(裏寒)を取り除き下痢や便秘、腹満、腹痛を治療します。桂枝加芍薬湯の適応する人は、刺激性の下剤を服用すると強い腹痛がおこって水様下痢が続いたとか、下痢で止瀉薬を服用したところ下痢は止まったが、お腹が張って便秘になり返って具合が悪くなったと、訴えられることがあります。過去に腹膜炎や開腹手術を経験したような人で、腸管の癒着や通過障害が考えられる人は、下剤が禁忌となるのでこの処方がよく用いられます。

    桂枝加附子湯:桂枝湯+附子1【辛温】

    桂枝湯に附子1を加えた処方で、自汗のある虚弱な人に葛根湯や麻黄湯のような強い発汗剤を与えたために、汗が止まらなくなって、悪風して、尿不利、四肢の痛みなどの症状が起こったとき(壊病)に使用する薬方です。

    しかし、必ずしも以上の経過によらなくとも、冷え性の人の、運動器の痛みや知覚鈍麻、運動障害、関節リュウマチで冷えると悪化する人に広く用いられます。

    桂枝加(苓)朮附湯:桂枝湯+茯苓4【甘平】+白朮4【苦温】  

    『傷寒論』太陽病篇にある桂枝加附子湯に朮・茯苓を加味したものです。

    やはり虚弱で冷え性の人で、水分代謝が悪くむくみや胃内停水のある人が関節炎や神経痛を患ったり、半身不随になったり、顔面神経麻痺になったりした場合などによく用います。胃腸が弱く、麻黄剤が長く服用できない人向きのお薬です。

    桂枝加竜骨牡蛎湯:桂枝湯+竜骨3【甘平】+牡蛎3【鹹平】   

    原典は『金匱要略』の血痺虚労篇に出ています。虚労篇というのは非常に体の弱い、疲れやすい人の治療を記しています。このような人がきつい労働をしたり、強い精神的なストレスを受けたりすると虚労の状態になります。すなわち脈は浮いて幅が広く

    (浮大脈)、食欲が減退し、手足に力が入らずだるくなる脾虚の症状を訴えます。また陰部は冷え、性欲が減退したり、髪の毛が抜けたり、動機がしたり、遺精(簡単に精液が漏れること)したりといった腎虚の症状も出てきます。この処方を用いる目標は

    @ 体つきはあまり丈夫でなく疲れやすい傾向にある。

    A 血色がすぐれなく、何となく生気に乏しい。

    B 外界の刺激などに対して過敏で興奮し易い。

    C 手足が冷える。

    D のぼせる傾向があり、頭、手のひら、足の裏などに汗をかきやすい。

    E 腹直筋は緊張していることが多く、お臍のあたりで動悸がしていることが多い。

    などで、適応症としては、精力の減退、インポテンツ、早漏、遺精、遺尿(夜尿症)、不眠症、神経症、うつ病、眼精疲労、円形脱毛症、動悸、息切れなどに用いられます。

    小建中湯:桂枝加芍薬湯+膠飴20【甘温】

    原点は『傷寒論・太陽病中篇』『金匱要略・血痺虚労篇』に出ています。本方は桂枝湯の芍薬を増量した桂枝加芍薬湯に膠飴を加えたもので平素から体力がなく、虚弱体質の人、また平素は丈夫でも無理を重ねて疲労している人や小児に用いられます。よく腹痛を訴える消化器系統の弱った人に用いることが多く、血色が悪いとか痩せているとかの外見だけでは判断できません。案外肥えていて血色のよい人も適応することがあります。使用の大きなポイントは慢性的な疲れ腹痛を訴えることですが、その他にも、足のほてり喉の渇きがあったりします。腹証は、腹直筋が二本の棒のように緊張し、臍の両側で突っ張っているか、お腹全体に軟弱無力でガスのために膨満しているかのどちらかのタイプですが、いずれにしても腹壁は薄くて軟弱です。この処方は、小児の体質改善薬として有名な処方で、一般的には消化器系の弱い小児で、しばしば鼻出血したり、疲れやすく発育不良の人の反復性の腹痛、夜尿症、夜啼き、食欲不振、アデノイド、臍部・そけい部のヘルニア、アレルギー疾患に応用されます。

    黄耆建中湯:小建中湯+黄耆【甘微温】4

    原典は小建中湯と同じ『金匱要略』の血痺虚労病篇に「虚労、裏急、諸々の不足は黄耆建中湯これを主る」とあります。小建中湯に黄耆を加えた処方で、小建中湯に準じて用いますが、黄耆は補気剤であり、体表の虚を補う要薬であるため、より体力が低下して寝汗や自汗の強いものに用います。また黄耆には皮膚表面の血液循環を良くし皮膚の再生能力を高めるので、発疹、びらん等の皮膚症状を伴ったり、慢性化膿瘡を伴う皮膚疾患にも応用されます。

    当帰建中湯:桂枝加芍薬湯+当帰【甘温】4

    原典は『金匱要略』の婦人産後病篇にでています。小建中湯から膠飴を去って当帰を加味した薬方で、婦人の産後や月経の前後で下腹部が刺すように痛み、その痛みが腰背部に引きつり痛むものの子宮出血、不妊症、排卵時痛に用います。出血のある時は地黄と阿膠を加え、衰弱の激しいものには膠飴を加えます。また黄耆4gを加え帰耆建中湯として使用することもあります。男女を問わず、胃腸虚弱な人で腹力は弱く、腹直筋が攣急しているか軟弱無力で腹壁の薄い人の、坐骨神経痛、腰痛、脱肛、痔、疝気、慢性腹膜炎に応用されます。

    桂麻各半湯:桂枝湯と次に出てくる麻黄湯のそれぞれ各半量づつを合わせたもの。

    風邪のこじれた時などで、麻黄湯で発汗させるには脈が弱すぎるし、桂枝湯では薬力が足りないという時に用います。

    次に麻黄湯です。桂枝湯が表虚証で体力があまりない人に用いる漢方薬であるのに対して、麻黄湯は表実証で汗がなく、体力も充実している人に用いられます。汗が出なく病邪が体表部にこもっているために症状が生じているので、麻黄―桂枝の組み合わせで発汗してやることで急速に回復することが少なくありません。そのためには、病者の体力と、病期(太陽病期で無汗・発熱・疼痛・喘咳のある時)を正確に把握することが大切です。

  • 麻黄湯

    [構成] 麻黄【苦温】5、杏仁【甘温】5、桂皮【辛温】4、甘草【甘平】2

    主薬は麻黄で、麻黄には発汗作用・鎮咳作用があり、桂枝と組んで血行を盛んにし、発汗解熱を促します。杏仁は鎮咳祛痰作用があり、気の滞りを散じ、胸間の水気を去り、浮腫を除きます。

    [出典および口訣]

    @「太陽病、頭痛、発熱、身疼、腰痛、骨節疼痛、悪風、汗なくして喘する者は、麻黄湯これを主る。」

    「太陽病、脈浮緊、汗なく発熱身疼痛、八、九日解せず、表証なお在り、其の人発煩、目瞑、劇しき者は必ず衂す、麻黄湯之を主る。」

                              『傷寒論・太陽病中篇』

    A「此の方は太陽傷寒無汗の症に用ふ、桂麻の弁犯すべからず。又喘家風寒に感じて発する者、此方を用ふれば速やかに癒ゆ。」  『勿誤方函口訣』浅田 宗伯

    「初生児、時々発熱ありて、鼻塞がりて通ぜず、乳をのむこと能はざる者あり。この方を用いれば即ち癒ゆ。」          『類聚方広義』 尾台榕堂 

    B「発熱頭痛、首筋肩背中腰など痛み、息はやく、咳出て或いは鼻塞がりて通ぜず、或いは咽喉痛み、或いはぜえぜえと喘し、さむけありて汗の出ざるもの、気力少なく、脈沈の者には用いるべからず。熱はあるなしにかかわらず、汗無きが本方の要なり。」                   『古方薬嚢』 荒木性次

    [証および適応症]

    証:悪寒や悪風がして発熱、頭痛があり、汗が自然に出ないで脈が浮緊で力がありこのとき咳嗽、胸満、身体痛、関節痛、腰痛などがあるもの。

    適応症:感冒・インフルエンザの初期、発熱と疼痛を伴う関節痛、咳、関節リュウマチの急性期、乳児の鼻塞、哺乳困難、夜尿症、気管支喘息、乳汁分泌不足。

    [留意点]

    @ 胃腸の弱い、虚弱な体質の人には向いていません。

    A 小児は新陳代謝が盛んで陽気が強いため適応する場合が多い。

    B 眠りが浅くて目が覚めずに失禁する小児夜尿症に用いられます。

    C 悪寒のない場合、脈が沈んで弱い場合、自然に発汗している場合には本方を用いてはならない。

    D 本方は強い発表剤であるので、あまり長期に用いる処方ではなく、発汗などで初期の症状が緩和されれば止める。

    E 本方を用い、かえって悪寒が強くなったり、食欲が減退するものは直ちに服用を止める。

    [加減方]

    麻黄加朮湯

    麻黄湯に朮5を加えた処方で、表熱実証の麻黄湯の証に、浮腫、尿不利など湿(水毒)の証も存在するときに用います。梅雨の時期などに悪化する関節炎、リウマチなどに適応することが多い。水滞の強いときは、脈は沈んでいることが多いが滑脈・弦脈などを搏つ時は実の病症でこの処方の適応となります。



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