50.呉茱萸湯

[構成] 呉茱萸【辛温】3、人参【甘微寒】2、大棗【甘平】4、生姜【辛温】1

主薬の呉茱萸は神農本草経に「中を温め、氣を下し、痛を止め、欬逆寒熱、湿血痺を除き、風邪を逐い、腠理を開くを主る。」とあり、お腹を温めて、気が上にのぼるのを下げて痛みを和らげる働きがあります。呉茱萸は生姜と組んで、血行を良くし、更に人参、大棗と合わさる時は気の上逆を下し、胃内停水を散ずる効果があります。


[出典および口訣]

@「少陰病、吐利し、手足厥冷し、煩燥して死せんと欲する者は呉茱萸湯これを主る」

                             『傷寒論・少陰病』

「乾嘔して、涎沫を吐し、頭痛する者は、呉茱萸湯之を主る。『傷寒論・厥陰病篇』

「穀を食して嘔せんと欲する者は、陽明に属するなり。呉茱萸湯之を主る。渇を得て反って激しきものは上焦に属す。」          『傷寒論・陽明病篇』

陽明病は本来は陽病期のうちでもっとも熱症状が激しく、胃に熱が及び腸を乾かすため便秘になり、そのため食が下らず食物を摂ってもすぐに嘔吐してしまう状態になります。この場合の治療法は下剤で下すことです。しかしながら呉茱萸湯はその構成から見ても分かるように、胃を温める薬方であるので、この条文の陽明とは真の陽明ではなく、「食べると吐く」という症状が陽明病に分類されるということを示しています。胃は冷えると停水やガスが溜まって膨満し食すれば嘔吐する症状は陰病に属します。 

「嘔して胸満する者は、呉茱萸湯之をを主る。    『金匱要略・嘔吐噦下痢病篇』

A「霍乱吐利、食薬を受けざるに用ゆ。凡て霍乱嘔吐悪物、悉く尽きて後、但嘔気止まざる者あり。呉茱萸湯を用ゆべし。又、水逆の如く水飲残りありて嘔する者は五苓散にて嘔止む。又薬食共に吐し且つ瀉止まざる者此れを用いて良きなり。」

                         『方読弁解』 福井楓亭

B「此の方は濁飲を下降するを主とす。故に涎沫を吐するを治し、頭痛を治し、食穀欲嘔を治し、煩躁吐逆を治す。肘後にては、吐醋嘈雑を治し、後世にては噦逆を治す。凡危篤の症濁飲の上溢を審にして此の方を処するときは其効挙げて数え難し、呉崑は烏頭を加えて疝に用ゆ。此の症は陰嚢より上を攻め、刺通してさしこみ嘔などあり。何れ上に迫るが目的なり。又久腹痛水穀を吐する者この方に沈香を加えて効あり。」

                       『勿誤薬室方函口訣』 浅田宗伯

C「穀を食して嘔せんと欲する者は胃中虚寒にして飲水淤畜するが故なり。呉茱萸の中を温め生姜の飲を逐う。是が為の故なり。按ずるに太陽下篇に云う、傷寒胸中熱あり胃中邪気あり、腹中痛み嘔吐せんと欲する者は黄連湯之を主ると。是に由りて之を観れば上焦に属するとは、すなわち胸中熱あるの謂にして当に小柴胡湯をあたうベき者なり。小柴胡湯を指して以って上焦を治するの方と為す亦以って徴すべし。」

                          『傷寒論集成』 山田正珍

[証および適応症]

証:平素から胃腸が弱く、血色が悪く、手足が冷える人の発作性の偏頭痛、嘔吐に用いられます。このような人は胃腸の働きが悪く、胃に停水が貯留するために胃部が冷え、心下が膨満感して硬く、みぞおちから臍にかけて膨れているのが呉茱萸湯の目標になります。もう一つの目標は、耳の後ろからこめかみに差し込んでくるような発作的な激しい頭痛で、偏頭痛の場合が多く、首〜項肩部の凝りや吐き気を伴ないます。

発作時は手足が厥冷し、脈も沈んで弱く遅い脈であるために回陽急逆の四逆湯の証と似ていますが、四逆湯は吐瀉よりも下痢のほうが主症で、腹力はなく腹部は極めて軟弱です。梧竹楼方函口訣には「本方の頭痛は、頭心より、項につらなって痛み、左肋の痃癖が甚だしい、これは太陽病の頭痛と区別しなければならない。本方証のような厥陰や少陰の頭痛は何れも耳の後ろからくるものである。」

適応症:

@発作的に起きる偏頭痛。激しい痛みで話も出来ないという状態のもの。

A肩こり特に項背部が凝るもの。

B貧血して冷え性の人の急性胃腸炎で、胃液や胆汁を嘔吐するもの。

C吃逆の止まらぬもの。

D胃酸過多症で足が冷え、胸やけし心下部が苦しく膨満するもの。

[加減方および留意点]

@頭痛があまり強くなくても、寒飲による嘔吐であれば使用できます。普通は嘔吐すればスッキリするのですが、この場合の嘔吐は吐いたあとますます胸苦しくなるのが特徴です。これは嘔吐するたびに中脘部の陽気が失われるためで、呉茱萸湯等で温めることが必要です。また呉茱萸湯の嘔吐は1回に大量の水を吐くことはなく、吐きそうにしても、何も出なかったり、胆汁や胃液だけを吐いたりします。

A服用すれば直ぐ吐いてしまうときは、少量ずつ飲みます、エキス剤の場合は水なしでなめても良いでしょう。

B上記ような偏頭痛がよく起る人は、発作のない時にこの処方を服用していれば、発作が起らなくなります。

C柿蒂湯:丁香1、柿蒂5、生姜4からなり呉茱萸湯と共にしゃくりの止まらないも    

のに用います。両方を合方することもあります。を急に食べ過ぎたり寒飲が過ぎて胃を冷やしたりしたときには有効ですが横隔神経に異常が有るときには無効です。 

Dこの方の適応する頭痛の発作時に煩躁、顔面紅潮、眼の充血やのぼせなど、上焦の熱症状を呈することがありますが、これは中焦の虚による真寒仮熱の症状なので、頭部を冷やさないほうがよく、それより冷えている腹部や手足を温めます。

E五苓散との鑑別について…

頭痛や吐き気に用いる場合、五苓散の証と呉茱萸湯の証はよく似ているため区別が

難しく煩躁、胸腹満、時に発熱して、水を飲むとすぐに吐いてしまうといった霍乱の症状は、いずれも水毒に原因があります。この二処方の鑑別のポイントは

○五苓散は口渇があり、水を飲んでは大量に嘔吐する水逆の症ですが、呉茱萸湯は寒飲なので口渇を訴えることは少なく水よりも、胃の未消化物や胃液、胆汁などを嘔吐します。

○呉茱萸湯の頭痛は偏頭痛で起ることが多く、五苓散の頭痛は頭全体が締めつけられるように感じることが多い。また呉茱萸湯の頭痛は、意識を失うほど激しく、眼も開けられず、物も言えないことがあるが、五苓散の頭痛はこれほど激しくはありません。

○呉茱萸湯証では頭痛時に脈が沈遅になり手足がひどく冷える(厥冷する)ことがありますが、五苓散証では脈は沈になることはあっても力があり、遅脈になることは少なく手足がひどく冷えることは少ない。



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