48.四逆散

[構成] 柴胡【苦平】5、枳実【苦寒】3、芍薬【苦平】4、甘草【甘平】2

柴胡:『神農本草経』に「心腹を主り、腸胃中の結氣、飲食積聚、寒熱邪気を去り陳きを推し新しきに至らしむ」とあり、体の表裏を和解し、疏肝し、胸脇部の苦満を取り除き、陽気を上昇させる効能があります。

枳実:『古方薬議』に「寒熱結を除き、痢を止め、胸脇痰癖を除き、停水を逐ひ、結実を破り、腸満を消し、心下急痞痛、逆氣喘咳を主る。」とあり滞った気を通じ、痞を散らし、去痰を促し、腹中の硬結を除く効能があります。

芍薬:『重校薬徴』には「結実して拘攣するを主治す、故に腹満、腹痛、頭痛、身体疼痛、不仁を治し、下痢、煩悸、血証、癰膿を兼治す。」とあり、血を養い、補血して血の貯蔵臓器である肝を和らげる、胃部の緊張を緩め止痛する。陰をひきしめ汗を収める効能があります。

したがって、これらの生薬の組み合わせのうち

柴胡―芍薬の組み合わせは、肝の機能異常による胸脇苦満、腹痛、大便不調、食欲不振、精神不安、黄疸、月経不調を治します。

柴胡―枳実の組み合わせは、胸脇部の満悶、苦満、腹痛、食欲不振、大便不調を治します。 

枳実―芍薬の組み合わせは、筋肉の緊張を緩め胸脇苦満および膨満感を治します。

芍薬―甘草の組み合わせは、筋の緊張または痙攣による脇痛、腹痛、手足痛を治します。      


[出典および口訣]

@「大柴胡湯の変方にて其腹形専ら心下及び両肋下につよくあつまり、其の凝り胸中

にも及ぶ位のことにてならびに両脇腹も強く拘急す。されども熱実すること少なきゆえ大黄、黄芩を用いず、唯心下両肋下を緩め和らぐることを主とする薬なり。本論症を説くこと今少し詳らかならず、且つ文章も亦成文とも見えず、おそらくは後人の作にてもあらんか。されども全體の腹形心下肋下の様子をよく会得して其の候具わる上ならば四逆厥するも此の薬にて治すべし、真の少陰の四逆厥とは脈状腹候なども大いに相違あるべし。」            『蕉窓方胃解』 和田東郭

A四逆散は『傷寒論・少陰病篇』のなかで「少陰病、四逆し、その人あるいは咳し、あるいは悸し、あるいは小便不利し、あるいは腹中痛み、あるいは泄利下重の者は四逆散これを主る。」と記載されています。もともと少陰病とは新陳代謝が低下し脈が触れにくく、体が冷えて寒気を感じ、ただ寝ていたいというような病症をいうのですが、四逆散の構成生薬の中には陰症に用いるような附子や乾姜といった温めるものは一つも入っていません。むしろ反対に柴胡や枳実などの熱や邪を除く瀉法の生薬が含まれています。このことについては昔から多くの議論がなされてきたみたいですが、その一つの見解としては、『熱厥』という考え方です。つまり四逆散の四肢厥冷は、少陰病や厥陰病でいうような、体の芯まで冷えて新陳代謝が低下し厥冷するのではなく、体の内部の何処かおそらく体幹部に熱結があるために、それより末梢の手足が冷えているのだという考え方です。

浅田宗伯はその著『傷寒論識』においてこの傷寒論の条文について次のように述べています。

「此の条熱厥軽き者を論ず。真武湯証に似たるなり。標して少陰病と曰へるは其の部類を示すのみ。四逆は四肢温和ならざるを謂う。夫れ人は四肢温和を順と為す。故に温和ならざる者を以って逆と為す。凡そ熱邪内鬱し、外達することを得ずして四逆するときは、即ち水氣も亦潜伏して壅遏(滞ること)を助くるを以って或いは下痢をなし、欬を為し、悸を為し、小便不利を為し、或いは腹痛を為し、下重を為すなり。蓋し欬悸小便不利は真武湯に似たり。腹痛下痢は四逆湯に似たり。惟だ下重の一證のみは二湯の更に無き所にして以ってその熱厥と為すを見るに足れり。」

「按ずるに方名四逆散とは四逆湯と同じく、手足逆冷を治すが故なり。但し四逆湯は寒厥を治し、四逆散は熱厥を治す。其の因自ら異なるのみ。蓋し此の方は大柴胡湯の変方に係り、邪を疏し氣を通ずるを以って主と為す。」

B四逆散の訣、心下常に痞し、両脇下火吹筒を立てたる如く張って凝り、左脇最も甚だしく、心下凝り強き故に胸中までも痞満を覚え、何となく胸中不快にして、物事怒りつよく、或いは肩背はり或いは背中七九の辺りはり、これ等は皆肝鬱の候也。この方を用いるべし。当今肝鬱の証多き湯ゆへ此の方の応ずる証極めて多し。和田家にては雑病人百人療すれば五、六十人は此の方に加減して用いると門人の話也。水分の動き強き証は、加山薬、生地黄有効という。余、今来この方を用いて毎々効を取れり。また、疝気に此の方の応ずる証多し。」 『餐英館療治雑話』 目黒道琢

C「一婦人産後大いに鬱冒す、色々按摩などしたり黒薬などを用ゆれども開けず。予、これを診するに胸脇甚だ苦満してつよくこれを押せどもきゅっとも云わずして動悸もなにもなく己に吐せんとする勢也。因りて四逆散に生地黄、紅花を加えて用いたるに頓に開きたり。この紅花、生地黄は全く瘀血へかけて用いたるにあらず、甘味の主剤へ組み合わせて只肝火の上逆をむっくりと潤しゆるめたるものなり。」

                          『蕉窓雑話』 和田東郭

[証および適応症]

証:この処方はその構成からみると柴胡剤に分類され少陽病期に適応します。小柴胡  湯証と大柴胡湯証の中間ぐらいに位置し、体力的には充実している人に用います。

  平素から体力はある人が、胸膈部に炎症を生じ、胸苦しさ、胸がしめつけられるなどの胸脇苦満の症状を訴え、手足が厥冷(熱厥)し、下腹部から両脇にかけて 拘急する者に用います。四逆散の腹証は、腹直筋が緊張していることが一般的ですが軟弱な場合もあります。

また、浅田宗伯は此の処方の証について

「大柴胡湯の変方にて、其の腹形専ら心下及び両肋下につよく聚り、その凝り胸中にも及ぶ位のことにて、両脇腹も強く 拘急す。されども熱実すること少なきゆえ、大黄、黄芩を用いず、唯心下両肋下を緩め和らぐることを主とする薬也。(中略)全體の腹形心下肋下の様子をよく会得して、其の候具わる上ならば、四逆厥するも此の薬にて治すべし。真少陰の四逆厥とは、脈状腹候なども大いに相違あるべし。

又疫に癇を兼ねること甚だしく、うわ言煩躁し吃逆を発する等の症、散火湯の類を

用れども寸効なきもの本方を用いて即験あり。」と述べています。

適応症:

@胸脇苦満があり、腹部から両脇にかけて引きつる傾向のある者の胃・十二指腸潰瘍、胆石症、胆のう炎、胃炎、気管支炎・肋膜炎で咳の出る者。

A蓄膿症や歯周病で歯ぐきが痛む者。

B自律神経失調症で体温調節がうまくいかず手足に汗をかき、厥冷する者。

四逆散をよく用いて効果をあげた人は、江戸時代中期の和田東郭です。東郭は腹部に異常がみられ、それが原因でおこる腰痛や四肢の神経痛、麻痺、排尿異常やノイローゼ様症状の患者にまで四逆散を応用しています。四逆散の精神症状に対する応用については明治初期の名医 浅田宗伯はその適応症に「氣鬱」「鬱々として閉じこもっている」「神気、爽快ならず」などをあげています。また浅田門の藤田謙造は「気持ちに張りがなく、気分がうつ滞して動作がものうく、万事を苦労にし、あるいは物事を憂慮してやまず。ややもすれば悲愁し、夜は夢をよくみて気分よく寝れず、あるいは物事に好悪があり、また、心中むしゃくしゃとして安定しない」と述べています。

Cしたがって四逆散が適応する精神症状は、

 ○些細なことが気にかかる

 ○神経質で用心深い

 ○自分の健康に自身が持てない

 ○心配事や不安があると、内向的な性格のためその悩みを発散できず、「胃腸の調子が悪い」とか「肩や首が凝る」といった腹部の内臓や筋肉系の緊張となって現われます。

[加減方および留意点]

@慢性の副鼻腔炎には四逆散加辛夷、川芎、呉茱萸、牡蛎、桔梗を加えます。

A『宋板傷寒論』には「方後に加減方として、咳には加五味子、乾姜、下痢し動悸するものには桂枝、小便不利の者には加茯苓、腹中痛む者には加附子。」と記されています。

B疝痛の者には茴香、茯苓を加えます。癇癖(神経が過敏で痙攣するもの)には釣藤鈎、黄連、羚羊角を加えます。

C抑肝散は四逆散の加方と考えられます。

D柴胡疎肝湯(柴胡・芍薬・香附子4、甘草・川芎3、枳実・青皮2)

胸脇の痛み(特に左)、あるいは衝逆、頭痛、肩項強急を目標に、疼痛、膨満感の強い者に用います。



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