43.真武湯

[構成] 茯苓【甘平】5、芍薬【苦平】、生姜【辛温】3、朮【苦温】3、附子【辛温】1

附子と生姜は新陳代謝を高めて、身体を温め、元気を鼓舞します。茯苓と白朮は胃腸などの消化管内に停滞する水を吸収し、利尿作用によって体液の分布を調節してくれます。芍薬は血をめぐらし、血痺を除き、裏を和し、腹痛を止め、津液を生じる。

[出典および口訣]

@ 真武湯は傷寒論の中で太陽病中篇と少陰病篇に記され全く異なる病状に用いられている。すなわち、「太陽病発汗し、汗出でて解さず、その人なお発熱、心下悸し、頭眩、振々として地に倒れんと欲する者は、真武湯之を主る。」『傷寒論・太陽病篇』と「少陰病二三日やまず、四五日に至り、腹痛、小便不利、四肢沈重疼痛、自下痢するもの、此れ水気有りとなす。その人或いは咳し、或いは小便利し、或いは下痢し、或いは嘔するもの真武湯之を主る」 『傷寒論・少陰病篇』である。前者の場合は、発熱、心下部の動悸亢進、めまい、身体が揺れて倒れんとする等の症状があり、後者では、腹痛、尿量減少があり、四肢は重く痛み下痢をする。これは水気のためであるから、その水気の動揺につれて、時には咳嗽があり、小便がよく出ることもあり、吐くこともある。一つの真武湯がこのように全く異なった症状に用いられるが、元来この薬方は少陰病の治剤であるから、後者が真武湯の正面の証であって、前者のような場合は変証である。従って前者のような例は、往々にして小柴胡湯証や、承気湯証、白虎湯証と間違えられたりする。

先ず真武湯の正面の証として、最も現れる症状は下痢である。この下痢は、1日2〜3回から4,5回位で十数回に及ぶことは殆どない。腹痛を伴うこともあるが、多くは軽く、激痛はまれである。裏急後重はないが知らないうちに便が出たり失禁の傾向のある者がある。大便は水様性のもの、泡沫状のもの、粘液や血液を混ずるものなどいろいろである。このような場合腹部は軟弱で力のないものが多くガスがたまり振水音を証明できるものが多い。『漢方と臨床・真武湯について』大塚敬節

A真武湯は陰証(少陰病)の葛根湯といわれるが、外感病の虚実について山田正珍は「外邪に侵されると、その人が実熱ならば太陽病となり、もしその人が虚寒ならば少陽病になる。実熱とは体力が充実していれば汗が出て正常に復するが、若しその人が虚弱ならば、汗が出ても病気が治らず、発熱、心下の動悸、めまい、身体の動揺感がおこる。これは汗が出すぎて陽気(活力)を失うためで、熱があってもその熱は表の熱ではなく、虚火炎上による熱(消耗熱のようなもの)である。心下の動悸が亢進するのも胃腸の虚により水毒が停滞するからで、めまいも身体動揺感も水毒のせいである。」と言っている。

B「真武湯、脈沈遅、手足微冷の者は真武湯によろし。若し四肢微冷すると雖も、腹満、大実痛の者は、急に之を下すべし、大承気湯によろし。」   『治痢攻微篇』

C「真武湯、腹中、小便利せず、或いは五更瀉、或いは一食一行の者を治す。真武湯、腹痛して自下痢する者によろし。真武湯、其人、常に水気有て咳し、或いは手足微腫或いは腹痛下痢、或いは小便不利するものによろし。      『古家方則』

D「産後の水腫、是産前の水腫治せずして産後に及ぶ。虚に属して治し難し。真武湯に宜し。且つ内攻し易き者なり。気急息迫、咳嗽する者は、真武湯加呉茱萸用いるべし。」

E「真武湯、熱解して後、骨節疼痛止まず、処々腫をなし、小便不利或いは腹中裏急の者、之を主る。」

F「治水腫、脈微弱、舌上白苔滑、小便青白、或いは下痢の者、下痢甚だしき者は芍薬を去る。余近来此の方を投じて虚腫を救うこと枚挙すべからず。実に虚腫中の第一方と云うべし。

G「口眼過斜、半身不随或いは周身不仁などするものには、桂枝加朮附湯、真武湯、附子湯の証多きものなり」

H「痿躄病(肢体が萎えて動けなくなる病証)にして、腹拘攣し、脚冷え不仁、小便不利、或いは不禁の者を治す。

腰疼き、腹痛し、悪寒して、下痢日に数行、夜間尤も甚だしき者。之を疝痢と称す。此の方に宜し。又、久痢にして浮腫を現し、或いは咳し、或いは嘔する者にも亦良し。」産後下痢、腸鳴腹痛、小便不利し、支体酸輭(だるく痛む)し、或いは麻痺し、水気有りて、悪寒発熱、咳嗽止まず、漸々に労状となる者は尤も難治と為す。此方に宜し。」                     『類聚方広義』 尾台榕堂

I「此方は、内に水気有りと云うが目的にて、他の附剤と違って水飲の為に心下悸し、身じゅん動すること振振として地に倒れんとし、或いは麻痺不仁、手足引きつることを覚え、或いは水腫小便不利、その腫虚濡にして力なく、或いは腹以下腫ありて肘肩胸背るいそう、其の脈微細、或いは浮虚にして大いに心下痞悶して、飲食美ならざる者、或いは四肢沈重疼痛、下痢する者に用いて効あり。」

                         『勿誤方函口訣』 浅田宗伯

J「真武湯、此方、痢の諸陰症具わりたるに用いる。自利と云い、覚えずして下る者、或いは小便不利して脚などに腫気あるの類、右等の真武湯証中一二を痢に現す者にも之を用うべし。或いは遺尿する者も此の方の症なり。遺尿は陽症にはなきものなり。

(中風、、癇などの陽証に遺尿することあるは、身の自由ならざるより粗相をするなり。)…」

「真武の証に舌候あり、其の舌純紅也。十に七八はしかり。痢疾、舌の赤きは悪証なり。もし初めよりかくのごときは、後必ず危険に及ぶべし。其の状、先ず淡紅を付けたるごとし。その後一重皮むきしごとく、恰も産後の舌に似て、滑沢なり。此の舌にして渇あれば、いよいよ悪症とす。痢の舌は、白、黄、黒は常なりとしるべし。」

                                有持桂里

[証および適応症]

証:四肢の末端が極度に冷えて元気なく、尿量減少して下痢し易く、動悸やめまいがあるもの。極度の冷え性で、疲労倦怠感が激しく、腹部はガスのため膨満するような慢性下痢によく用いられます。腹部は軟弱無力で振水音を証明し、脈は沈遅、沈微や沈細であることが多く、熱があり脈が浮いている時でも力はない。 

  真武湯の適応する人は、新陳代謝が低退しているため普段から体の寒さや冷えを訴えることが多い。このような人は、消化管内に水気が停滞しやすく、腸が冷え運動が低下するためガスが溜まったり、腹痛や下痢が起りやすい。また体表部の水気は体温を奪うため常に悪寒と手足の冷えを感じ、停滞した水気は浮腫となり四肢沈重疼痛の原因となります。水気が上半身へ上衝すればめまいや咳となります。真武湯構成中の附子と生姜は新陳代謝を盛んにし身体を温め元気を増す。

茯苓と白朮は水毒症状の原因となっている、消化管内に停滞する余分な水を尿として処理することで体液の分布を調整してくれます。芍薬には整腸作用があります。

適応症:

1.自覚症状の少ない発熱症状

他覚敵には熱があるのに、自覚的には殆ど熱感を感じない、顔色は悪く、悪寒があって手足が冷えているもの(少陰病の風邪)で脈は浮弱数です。

2.虚寒証の心悸亢進、めまい、または運動失調

脈が沈弱で心悸亢進したり、めまいしたりするもの。歩きにくい、立っているとふらふらする、つまずきやすい、よろめく、などの運動失調から、筋肉がピクピクする(目のふちや瞼、口の周辺など)、手や足の筋肉がピクッと引きつれたり、動くもの、振戦に用います。

3.虚証の下痢

水様便又は泥状便で、尿量が減少し、時には腹部に鈍痛を訴えることもある排便後は体力消耗し疲れることが多い。腹中雷鳴、口渇、嘔吐、裏急後重の伴なう下痢には不適応で、この場合には半夏瀉心湯、五苓散、桂枝加芍薬湯を検討する。

4.浮腫

虚証の浮腫だから押しても軟らかく弾力がなく、押した跡が直ぐにもとに戻らない(虚腫)皮膚は青白くたるんで、ぶよぶよな感じがする。或いは小便不利、或いは心悸亢進する。心臓病による場合でも腎臓病による場合にも用いることができます。

[運用上の留意点]

@服用後、酒に酔ったような感じになったり、痺れたり、動悸がしたりするときは、附子の中毒症状であるので、服用を中止し多目の水を飲むようにします。

普段から体力があり、暑がりで、血圧の高い人には向いていません。

A慢性の下痢に真武湯を用い、下痢が止んでから、一時的に浮腫のくることがあります。この場合は瞑眩反応なので、続けて服用すれば浮腫は消失します。

[症例]

39歳、女性、数日前から風邪気味で、鼻水や鼻詰まりの症状があった。四国から大阪に移動する船内での冷房で体が冷え、あくる日から頭痛、微熱、吐き気、下痢を訴えた。尿は普段からあまり出ないほう。顔は赤く熱っぽく、寒気はあまり感じない

冷房で体を冷やしたことが症状悪化の原因になったこと、脈が沈んでいること、水毒症状のあることから真武湯エキス1回2gをお湯に溶かし服用したところ1時間くらいで頭痛と吐き気が治まった。その後2日分服用し風邪症状はなくなった。



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