30.抑肝散

[構成] 当帰【甘温】3、川芎【辛温】3、白朮【苦温】4、茯苓【甘平】4、釣藤鈎【苦微甘】3、柴胡【苦平】2、甘草【甘平】

東洋医学では、血は脾の働きによって造られ、心により全身に循環し、肝に蓄えられるとされています。もし肝の機能に変化が起こり、血液を貯蔵しすぎて循環血の量が減少すれば、視力低下、耳鳴り、めまい、筋肉の拘攣、体の麻痺などが起こってきます。また、肝の血を貯蔵する作用が衰えると、全身に血液があふれ出血傾向が現れてきます。当帰、川芎は肝に働いて血を増やし、貯蔵量と循環量を調節します。柴胡、釣藤鈎、甘草は肝気をゆるめ、精神的な興奮を鎮めます、白朮、茯苓は肝の異常興奮で弱められた脾の働きをよくしストレスから胃腸を守ってくれます。

処方中の釣藤鈎は、アカネ科のカギカズラのトゲを用いますが、この生薬にはリンコフィリンというアルカロイドが含まれており、このアルカロイドは中枢性の血圧降下作用・末梢血管の痙攣や緊張をゆるめる作用があると報告されています。

[出典および口訣]

はじめて記載されたのは、明代の小児の治療書『撮要保嬰』であることからも元来は子供の治療薬として考えられた処方です。「肝経に沿って、熱症状を呈し、痙攣を起こしたり、発熱して歯ぎしりをしたり、神経過敏になり、動悸や、暑さ寒さに敏感になり、肝脾の働きの不調和により痰涎を嘔吐し、腹満して食欲が落ち、睡眠障害のあるものを治療する。母および児に同じように飲ます。」『撮要保嬰』

また、江戸時代の目黒道琢の著書『療治雑話』の抑肝散の項にも「体が弱くて、神経過敏で怒りやすく、すぐ疳を立てる子供が、熱を出したり、ビクビクしたり、怖い夢を見て叫び声をあげたり、痙攣を起こしたり、歯ぎしりをしたりするものに用いる処方」とありますように、始めは子供の疳証に用いられていたものが、その後大人にも応用されるようになったと考えられます。

@「此の方は、四逆散(柴胡、芍薬、甘草、枳実)の変方にて、凡て肝部に属し、筋脈強急するものを治す。四逆散は腹中任脈通り拘急して、胸脇の下に衝く者を主とす。この方は左腹拘急よりして、四肢筋脈に攣急する者を主とす。この方を大人の半身不随に用いるは、東郭の経験なり。半身不随並びに不寝の証にこの方を用ゆるは、心下より任脈通り攣急動悸あり、心下に気聚まりて痞する気味あり、病人に問えば必ず痞えると云う。また左脇下、筋急ある症なれば、怒気はなしやと問うべし。もし怒気があればこの方は必ず効あり。」『勿誤方函口結』浅田宗伯

A「臍の左の辺りより心下までも、動気の盛んなるは、肝木の虚に痰火の甚だしき証、抑肝散に陳皮、半夏を加ふべし」

[証および適応症]

証:抑肝散は肝の病いの中でも機能が亢進し、興奮状態になり、怒りやすく、筋肉が引きつれている。時には食欲がなかったり、腹が張ったり、興奮して眠れなくなった時に用いる処方です。故に興奮した肝の機能を抑制する意味で、抑肝と名づけられています。いわゆる疳が高ぶるという神経過敏を抑制する、漢方の代表的な精神神経安定剤と言えるものです。

もともと体力のあまりない人や、体力があっても長い期間の慢性疾患のため体力の落ちている人が、精神的なストレスなどを受けると肝機能が異常亢進を起こしそこに肝火が生じます。肝はもともと血が不足して熱を持ちやすい臓であるのでこの肝火は虚熱の症状です。火事が起こると風が発生するように、肝火は体内に風を生じ、その風によって、めまい、締め付けられるような頭痛、頸項部の凝り、四肢の痺れ、筋肉や皮膚、眼瞼がピクピク動く、唇・舌・指のチック症状、言語障害、歩行障害などの症状が現われます。

適応症:神経症、ヒステリー、血の道症、更年期障害、夜啼き、不眠症、癇癪もち、歯ぎしり、チック、癲癇、脳出血後遺症、片頭痛

[加減方および留意点]

@抑肝散加陳皮半夏

抑肝散証がさらに進み、腹壁は弛緩気味となりそのために、臍の左の辺りよりみずおちにかけて動悸が連なって感じられます。このときは肝剋脾により胃腸の機能が落ちていますので半夏・陳皮を加えて二陳湯を加味します。

A抑肝散加芍薬黄連

緊張型・興奮型で不眠が強いときに用います。

B抑肝散加芍薬厚朴

緊張型・興奮型で筋肉の引きつりや、痙攣が強いときに用います。



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