29.補中益気湯

[構成]黄耆【甘微温】4、人参【甘微寒】4、白朮【苦温】4、当帰【甘温】3、陳皮【辛温】2、大棗【甘平】2、甘草【甘平】1.5、柴胡【苦平】1、乾姜【辛温】0.5

補中益気湯を構成している薬物の内、人参と黄耆は肺を補い、肌の表面を固め、自汗や盗汗を治すといわれています。人参・甘草・大棗・生姜は胃腸を補い元気をつけ、白朮と陳皮と組んで胃の機能を盛んにします。当帰は血を補い、黄耆と共に皮膚の栄養状態をよくし、柴胡と升麻は、解熱の効果があります。また此の薬方には沈衰した気を引き立てる働きがありますが、これには柴胡・升麻・陳皮が関係していると考えられます。

[出典および口訣]

@津田玄仙はその著書『療治経験筆記』の中で、補中益気湯を用いる8つの目標を定めています。すなわち「この方を広く諸病に用ゆる目的は、(第一に手足倦怠)倦怠とは手足の落ちる様にかいだるく、力なきを云う。(第二に語言軽微)

語言軽微には、語言は朝夕のものいいのこと也。軽微とは『かるくかすか』とよむ字にて語言のたよたよといかにも力なく、かるくかすかにして、よわよわと聞こゆる証を云う也。(第三に眼勢無力)眼一応にみれば朝夕の如くに見ゆれども、よく気をつけて見れば目の見張り、くたくたとして、いかにも力なく見ゆるを云う。(第四に口中生白沫)白沫とは病人食中に入れて噛むときに口のあたりに白沫生じるものなり。(第五に食失味)甘きものも酸っぱきものも苦辛も口中にて分からず、不食す。(第六に好熱湯)脾胃虚して益気湯の応ずる者は、何程熱ありても口には煮立ちたる物を好むものなり。これは脾胃の虚の上に冷を兼ねたる者多く、そのときは益気湯に附子を加えて良しと知るべし。(第七に当臍動気)益気湯の応ずる脾虚の症は臍のぐるりを手をもって按ずるに、必ず動気甚だしきものなり、もし動気うすきは脾胃の虚の軽きものなり。(第八に脈散大無力)散は脈のはっと散り広がりて、しまりなき脈をいう。指を浮いては散ひろがりて太くうてども指を沈めてみれば、力弱くうつを散大無力というなり。」とあります。以上を要約すれば「●手足の倦怠感●声に力がなく小さい●目に力がない●口の中に白い沫状のものが生じる●食べ物の味がなくなる●熱い飲食物を好む●お臍のところで動悸がする●脈が散大で力がない」以上の8症となりさらに津田玄仙はその中でも手足の倦怠感について、「倦怠とは手足の落ちるようにかったるく、力なきを云ふ。この手足倦怠は本方の運用第一の目的とすべきもので、肝要中の肝要である」としています。


A「この方は李東垣が、建中湯、十全大補湯、人参養栄湯などを差略して組み立てし方なれば、後世方に種々の口訣あれど、小柴胡湯の虚候を帯びる者に用いるべし、病が少陽柴胡の部位にありて、内傷を兼ねる者に与えれば間違いなきなり。故に婦人男子共に虚労雑症に拘らず、この方を長服し、効を得ることあり。特に婦人には最も効あり。また諸痔脱肛の類、疲れ多きものに用いる。またこの証にして、煮立てたる熱物を好むは附子を加えるべし。」

『勿誤薬室方函口訣』浅田宗伯

B「此の益気湯は、自汗、或いは汗が出易く、表虚と云うに功ありと知るべし。

表をよく固むる剤なり。痰を切る力のない咳には、この剤を用いて力をつけ咳を止めるべし。(中略)脈は洪大無力・微細軟弱、心下空虚、按じて力なく、按腹を好み、柔らかにして少し張る。これ皆気虚に属するなり。甚だしければ則ち、附子、乾姜、肉桂を加える。」        『当荘庵気方口解』北尾春甫

C「中気不足肢体倦怠し、口乾き発熱し、飲食味なきを治す。或いは飲食節を失し、労倦身熱、脈は虚大、頭痛、悪寒、自汗、中気虚弱にして血を摂すること能はず。

飲食労倦して瘧痢を患い、元気虚弱にして風寒に感冒し表を発するに勝てず、或いは房に入りて後に感冒するを治す。……按ずるに此の方、元気を補ひ、脾胃を養ひ下陥の気を升提し、内傷を治する要薬なり。」       『古今医鑑』


[証および適応症]

証:小柴胡湯を使いたいような場合で、往来寒熱や胸脇苦満はそれほど激しくなく、食欲不振があり、疲労し易く、全体として元気のない人に用い、これらの人は時に気分が落込み易い傾向にあります。この薬方の証の人は、元来胃腸が弱く弛緩性の体質で胃下垂や胃アトニーがあり、疲労や飲食の不摂生、あるいは風邪などによって胃腸の機能が減退し、そのために食欲不振、四肢倦怠、全身疲労感、口中乾燥という症状を呈します。また先に記した津田玄仙の8つの使用目標に該当する人には良く適応します。

脈証は散大で無力、或いは微細、軟弱でいずれも虚脈です。

腹証は、「心下空虚之を按じて無力、按腹することを好み柔らかにして少し張る」とありますが時に、柴胡の証のように心下、両脇下が痞塞することがあります。

舌証は、舌は苔がなく潤っているか、或いは微白苔があって口中燥を訴えるものもありますが、あまり水分は飲みません。(口乾)

適応症:以上の目標により本方は

@虚弱者の感冒、胸膜炎、肺結核の初期と回復期。

A病後の衰弱、夏やせ、神経衰弱、食欲不振、虚弱体質の改善。

B痔疾、脱肛、下垂、子宮下垂(脱)。

C陰萎、半身不随、多汗症に用います。

また「脾は統血する」という考えから、胃腸や子宮から出血して衰弱している人、長期間の熱性病の後で、下痢や微熱がつづいて衰弱して治りが悪い人に用います。


[留意点および加減方]

@元気が甚だしく衰え、悪寒がしたり、手足が厥冷し全身が冷える者には附子を加えます。

Aアレルギー性鼻炎や蓄膿症で鼻づまりがあり、胃腸虚弱で元気がない人には本方に川芎3g、辛夷3gを加えます。

B本方適応証の人で頭痛の強い人には川芎3g、白芷3gを加えます。

C本方適応証の人で咳の続く人には五味子2g、麦門冬5gを加えて味麦益気湯とします。

D本方適応証の人で胃内停水があり胃腸障害の強い人には茯苓4gを加えて四君子湯の方意を加える。



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