27.防己黄耆湯

[構成] 防己【苦温】5、黄耆【甘微温】5、朮【苦温】3、大棗【甘平】3、甘草【甘平】1.5、生姜【辛温】1

防己には利水消腫作用、祛風止痛作用、消炎鎮痛作用や抗アレルギー作用のあることが知られています。黄耆には血管拡張作用があり、皮下の血流を増し、水毒を去りその栄養状態を高めるので、表虚の要薬としてよく使用されています。白朮は健胃除湿の効があり黄耆とともに利尿、止汗の働きがあります。防己黄耆湯の運用に際しては「黄耆」の薬能をよく理解しましょう。

黄耆の薬能

吉益東洞の『薬徴』には「肌表の水を主治するなり、故に能く黄汗、盗汗、皮水を治す。傍ら身体腫あるいは不仁を治す。」とあります。黄耆は体表部に水滞があり、体力があまりないためにそれを発散できない状態に使う薬です。普通水滞は消化管や気管に停滞しますが、皮膚表面の血行が悪く、冷えて発散力が弱い人は、皮膚表面から水を放散することができないので、出るべき汗が皮下に溜まってしまいます。これが黄汗の状態で、この状態が長く続くとおできや化膿を生じます。黄耆はしばしば桂枝と協力して皮下の水をさばき、その性は微温で貧血や血虚、冷えのある人の血行を促進してくれます。また、黄耆は、皮下の水滞による体表部の痛みをとり、余分な汗を止めます。水が発散できずに尿量が少なくなるため頭が充血して血圧が上がる、腎性の高血圧には、黄耆の入った処方がよく応用されます。


[出典及び口訣]

@「風湿、脈浮、身重く、汗出で悪風する者は、防己黄耆湯これを主る。」

                         『金匱要略 痙湿暍病篇』

A「防己黄耆湯は、風水、脈浮、表に在りと為す。その人、或いは頭汗出で、表に他病なし。病者、ただ下重く、腰より以上和を為し、腰以下まさに腫れて陰におよび、以て屈伸し難きを治す。」          『金匱要略・水気病編』

B「この方、専ら正気を健運せしめて、淫行の水気をして回降せしむるにありて、他の気血の鬱滞を解和するの意はなし。桂芍を伍せざる所以なり。

 その表虚水気を診するの法、病人肌膚、肥白にして之をひねるに、其の肉軟虚にしてしまりなく、ぐさぐさするもの、此れ正気表に旺せずして浮水氾濫するものなり。腫に非ずといえども、以て表虚の水気とすべし。」   『腹証奇覧翼』

C「防己黄耆湯と麻杏ヨク甘湯とは虚実の分あり。麻杏ヨク甘湯は脈浮、汗出でずして悪風するものに用いて汗を発す。防己黄耆湯は脈浮にして汗出で悪風の者に用いて解肌して癒ゆ。傷寒中風の麻黄・桂枝の分あるがごとし。身重は湿邪なり。脈浮汗出でるは表虚する故なり。麻黄を以て発表せず、防己を用いて此れを駆るなり。」   『浅田宗伯 勿誤薬室方函口訣』


[証および適応症]

証:いわゆる水太りの体質で、皮膚の色が白く、疲れやすく汗が多く尿量が少ない人に用います。体表に水毒があるために浮腫みやすく、かつ冷えやすいのでしばしば膝や足首などの関節痛・腰痛に悩まされている人に適応します。

ベッドにあお向けに寝た時にいわゆるカエル腹を呈してお腹の肌肉がダボついている人で、つまんでみると軟虚でしまりがなく、ぐさぐさとする人で「表虚の水気」証を表す人によく奏効します。脈の多くは浮弱ですが浮腫みが強い場合は沈脈となることもあります。

防己黄耆湯の適応する証は男子よりも婦人に多く、その婦人のタイプは「色白でぽっちゃりした水肥りタイプで、体が重く、起居動作がものうく、掃除や炊事をまめまめしくすることを好まない、というよりそれをするのが大儀である。体をあまり動かさないので、ますます肥満してくる。食事の量は少なく、1回くらい食事しなくても平気である。お茶を好んで飲む人が多い。大便はだいたい毎日あるが、月経の量が少なく、不順を訴える。汗をかきやすく、特に夏は流れるごとくである。このタイプの婦人は50才を越すと、ひざ関節の痛みを訴えるものがかなりある。また、夕方になると靴や靴下が窮屈になるくらいに足が浮腫んでくる。(漢方の臨床・大塚敬節)」とあります。

適応症:

変形性膝関節症、多汗症、虚証の肥満症、主に下半身の浮腫、陰嚢水腫、月経不順(特に若年者の過少月経に)、蕁麻疹、冷え性(温熱の薬方を服用してもあまり効果が無い時)、腎炎、ネフローゼ、妊娠腎、神経痛、関節痛、皮膚疾患(希薄な分泌物を伴うもの)


[加減方および留意点]

@防己黄耆湯の適応する病態は、「衛気の虚と湿」であり「肺・脾・腎の虚」によるものと考えられますが、むしろ湿が主になっているためその本態は腎にあると思われます。

A防己黄耆湯が適応すると思われる関節炎でも、浮腫・熱感が強いときには麻黄・石膏を加えるか、越婢加朮湯を少量加えると腫れが早く引きます。

Bこの処方は膝関節の疼痛によく用いられますが、その主作用は水毒の排除にあるので、関節液の貯留や、それにともなう下肢の浮腫には効果がありますが、外傷後の痛みやリュウマチによる強い炎症などには、この処方だけではあまり効果が期待できません。

C防己茯苓湯:(防己3、黄耆3、茯苓5、桂皮3、甘草1.5)

 防己黄耆湯から白朮、大棗、生姜を除き茯苓、桂皮を加えた処方で皮水の病に用います。皮水の病とは「水腫病の一種で多くは脾が虚し、湿が盛んとなることにより、水が皮膚に溢れておこるものである。発病は緩慢で、全身が水腫し、圧すると指が没し、腹が鼓のようにふくれ、無汗、渇せず、多く脈は浮をあらわします。

桂皮が配合されているために、防己黄耆湯よりもさらに浅い部分の水毒に働きかけ、また上半身の浮腫にも有効です。また白朮の代わりに、茯苓を用いているため利尿作用が強化されています。『金匱要略 水気病篇』には「皮水の病たる、四肢腫れ水気皮膚中にあり、四肢聶聶(しょうしょう・木の葉が動くように)として動くものは、防己茯苓湯これを主る。」とあり、皮下の浮腫によって、末梢部の血行障害、代謝障害がおこり手足の筋肉が部分的にピクピク動いたり、麻痺、痺れ、疼痛、冷感を訴える者に用います。



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