26.半夏瀉心湯

[構成] 半夏【辛平】5、黄ごん【苦寒】2.5、乾姜【辛温】2.5、人参【甘微寒】2.5、甘草【甘平】2.5、大棗【甘平】2.5、黄連【苦寒】1

この処方の特徴は、実証に用いる黄連と黄ごんと、虚証に用いることの多い人参・乾姜が組み合わされていることです。つまり黄連は消炎・鎮静・止血の薬効があり、黄ごんは消炎、解熱の薬効があります。この二薬は合わさって心下の熱と湿を除き胃の痞えを治し、気分の動揺を鎮めます。人参は胃腸の消化吸収を良くし嘔吐・下痢を止め、乾姜と合わさって胃腸の寒(冷え)を取り除きます。したがってこの処方は虚実中間証や虚実夾雑証(上実下虚証)に用いられます。半夏は鎮嘔作用があり胃内停水を去る効果があります。『薬徴』には「半夏は痰飲の嘔吐を主治するなり。かたわら心痛、逆満、咽中の痛み、咳、悸、腹中雷鳴するを治し、嘔は生姜之を主る。嘔して痰あるは半夏之を主る。」とあります。

[出典および口訣]

@「嘔して腹鳴り、心下痞する者は、半夏瀉心湯これを主る。」

『金匱要略嘔吐・下痢篇』

A「痢疾にて、腹痛し、嘔して心下痞鞭する。或いは便膿血する者、及び飲食湯薬腹に下る毎に、直ちに漉漉として声有りて、転泄(下痢)する者、以下の三方(半夏瀉心湯・甘草瀉心湯・小姜瀉心湯)を撰用すべし。『類聚方広義』 尾台榕堂

B「此方は、飲邪併結して心下痞鞭する者を目的とす。故に、支飲或いは澼飲の痞鞭には効なし。飲邪併結より来る、嘔吐にも噦逆にも下痢にも、皆運用して特効あり。千金翼に附子を加うるものは、すなはち、附子瀉心湯の意にて、飲邪を温散させる老手段なり。又、虚労或いは脾労等の心下痞して下痢する者、この方に生姜を加えて良し。即ち生姜瀉心湯なり。」  『勿誤薬室方函口訣』浅田宗伯


支飲:痰飲や水気が胸膈部の胃脘部に留滞し、喘咳して上気し胸満して短気、甚だしければ浮腫をおこす病証をいいます。

澼飲:飲邪が胸脇に停留することにより、脇下が張満して不快になり咳をすると痛み転側するとひきつれる病証をいいます。


[証および適応症]

証:体質、体力が中ぐらいの人で、心下部(みぞおち)が痞え、食欲不振、吐き気、嘔吐、時に軽い上腹部痛があり、腹がなって下痢をする者に用います。

 また心下部が痞えて肩がこり、みぞおちに違和感があり、胃の存在を感じ時として精神不安や神経過敏を呈する場合があります。舌には白苔を生じ、腹部はやや緊張があり、心下が硬く張って圧痛があります。(心下痞硬)

適応症:急性・慢性の胃炎、胃下垂、胃アトニー、消化性潰瘍の再発防止、下痢型の過敏性腸症候群、口内炎、舌炎、吐き気、悪阻、食欲不振、神経症、不眠症、肩こり、など。


[加減方および留意点]

@甘草瀉心湯:甘草の量を2.5gから3.5gへ増量した処方

「半夏瀉心湯の証にして心煩し安きを得ざる者を治す。まさに急迫の証あるべし。この方半夏瀉心湯に更に甘草を一両加う。しかれども其の主治する所、大いに同じからず。曰く、下痢日に数十行穀化せず、曰く、乾嘔、心煩安きを得ず、曰く、黙々として眠らんと欲して目閉じるを得ず、臥起安からざる者、喉を蝕するを惑と為し、陰を蝕するを弧と為す。飲食を欲せず、食臭を聞くを悪み、其の面乍赤く、乍黒く、乍白し。上部を蝕すれば則ち声渇す。これ皆急迫する所有りて然るものなり、甘草君薬たる所以なり。」

半夏瀉心湯の目標のうち腹中雷鳴の不消化症状がひどくなり、精神不安が加わって来ると、甘草瀉心湯を用います。また口中に潰瘍ができるという条文を応用して口内炎、舌炎、嗄声に用いますが、このとき胃腸症状、精神症状があれば、よく適応します。

A生姜瀉心湯:乾姜の量を2.5gから1.5gに減量し代わりにひね生姜2gを加えた処方。

「およそ、噯気、乾嘔を患い、あるいは呑酸、あるいは平日飲食毎に悪心妨満を覚え、脇下に水飲昇降するもの、その人多くは心下痞鞭し、臍上に凝塊あり。」

半夏瀉心湯の目標のうち胃部の不快感が特に強く、げっぷに食臭のあるものに用います。このとき、生姜は乾生姜よりも、ひね生姜のほうが効果があります。

B胃腸全体がごろごろと鳴り下痢の症状があまり強くなく軟便に近い場合は半夏瀉心湯。腹中雷鳴と消化不良がひどく、水様性の下痢で嘔吐もあり急性かつ急迫症状の強い場合に、特に症状が胃の方にかたよっている場合は生姜瀉心湯、腸の方の症状が強い時は甘草瀉心湯を検討します。

Cこれらの処方の適応する下痢は、後で一時スッキリと気分が良くなります。また、この処方は比較的に排便量が少なく下痢便や軟便でありながら、ときどき便秘して、下剤を服用すると激しく下痢をしてしまうタイプの人に適応します。ちなみに人参湯や六君子湯などの適応する下痢は、排便後かえってしんどくなります。

Dこの処方を服用すると、かえって胃部が重なり、ガスが増して不快感や痛みが強く感じられる人があります。この人は胃部に強い寒邪があるためでこのような時には理中湯や附子理中を用います

E半瀉六君子湯:半夏瀉心湯と六君子湯の合方で、六君子湯に黄連1.5g黄芩3gを加えます。半夏瀉心湯よりも脾胃の気が虚した状態で、心下痞硬と胃内停水があり、元来は疲れやすく冷え性であるのに、胃腸不調のために上焦に熱症状(口内炎やのぼせ、不眠など)の見られる人に用いられます。



ホームページへ   前のページ   目次に戻る   次のページ

Copyright